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大分県における黒毛和種育成子牛の牛毛包虫症の発生状況とその対策
立川文雄1)†
1)ゆふいん動物病院
(2014年10月23日受付・2015年2月25日受理)
要 約 近年大分県では,子牛市場への出荷前の育成子牛において,育成子牛価格に悪影響を及ぼ
す皮膚病が散見されることから,その発生状況と対策について調査した.2011年8月から2014年6月に
かけて大分県のS地区とY地区において,240 ~ 269日齢(254.32±8.52,平均±標準偏差)の黒毛和種
肥育素牛2,106頭を対象に,家畜市場出荷前のワクチン接種時に視診及び触診検査を行うとともに,牛
毛包虫(Demodex bovis)感染が疑われた131頭について寄生虫学的検査を実施した.また,予防およ
び治療についても検討を行った.その結果,虫体の大きさ(体長×体幅)は,毛包内の雌成ダニ(n
=28)では平均で232.7×66.71μm,雄成ダニ(n=24)では264.51×67.68μmであり,痂疲内の雌成ダニ
(n=30)では218.8×63.47μm,雄成ダニ(n=19)では219.0×57.51μmであった.また,皮膚表面の雌
成ダニ(n=2)では135.8×53.89μmであった.結節は頚部が67%(67/100)で最も多くみられた.また,
雌雄間で発症に差はなく,発生は4カ月齢よりみられ,7カ月を過ぎると急速に増加した.母子接触に
より次の産次の子牛にも結節症状がみられた母牛の割合は,49%(30/61)であった.各農場における
対策内容を調査した結果,予防にはイベルメクチンポアオン製剤の投与が,治療にはフルメトリンポア
オン製剤の1週間ごと2回投与が有効であることが分かった.毛包虫症は年々増加傾向にあり,気温の
高い時期に発生が増加する傾向にあるが,吸血昆虫による刺傷痕が多くみられる6月から8月は本症の
結節との鑑別が必要である.また,毛包虫症の皮膚病変は多岐にわたり,二次感染などにより複雑化し
た難治性皮膚病では積極的な検査が必要と考えられた.
――キーワード:黒毛和種子牛,皮膚病,結節,毛包虫症
産業動物臨床医誌 5 (増刊号)
:247-252, 2015
1.はじめに 腫れ),擦過傷,皮膚異常等の事前申告がされていない
毛包虫は多くの種類の動物に寄生するが,それぞれの 場合には,数万~数十万円の損害請求が発生している事
宿主で特異的に進化し,種類の異なる動物間では伝搬が 例もある.このような事態を未然に防止するためには,
認められない.毛包虫症は遺伝性疾患といわれている 家畜市場上場前に皮膚病変の有無を確認することが重要
が,その感染ならびに拡大様式については推測の域を出 であるとともに,飼育期間中に的確な対策を講じること
ていない.牛毛包虫(Demodex bovis)においても生活 が不可欠である.そこで,本研究では大分県の育成子牛
様式など不明な点が多い.症状としては掻痒感を伴わな で近年増加傾向にある牛毛包虫症の発生状況と,治療お
い結節を体表に形成し,感染様式が日和見的であるた よび予防法について調査した.
め,これまであまり重要視されてこなかった.日本にお
ける牛毛包虫症の報告は少ない[1, 2]が,皮革損傷の 2.材料および方法
原因となることから農場が被る経済的損失が大きい[3- 調査期間は2011年8月から2014年6月で,大分県のS
5].近年,家畜市場において育成子牛価格が高騰し,販 地区とY地区において,240 〜 269日齢(254.32±8.52,
売後のクレーム件数も増えつつあり,注射痕(注射後の 平均±標準偏差)の黒毛和種肥育素牛2,106頭を対象に,
† 連絡責任者:立川文雄(ゆふいん動物病院)
〒〒879-5114 大分県由布市湯布院町川北2027-1 ☎ 0977-84-3293 FAX 0977-84-3314
E-mail:tatsu230@rj8.so-net.ne.jp
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家畜市場出荷前のワクチン接種時に視診,触診にて結節 た母牛の割合をみた.また,発症牛の血液検査を実施し,
の有無を確認し,毛包虫症が疑われた131頭について寄 好酸球数についても調べた.
生虫学的検査および発生状況の調査を実施した. 予防:2011年8月から育成子牛に結節症状のみられな
寄生虫学的検査:結節形成部位の毛包を鋭匙で掻把 い8農場(飼育規模20 ~ 100頭,平均45.6頭)について
し,20%KOH液を用いて結節内容物は30分,結節表面 衛生プログラム,実施時期について聞き取り調査を行っ
の痂疲は2時間融解した後に鏡検した.なお,毛包内容 た.
物は軟質なのでカバーグラス,痂疲は硬く厚みがあるの 治療:イベルメクチン(ノロメクチン注,共立製薬,
でカバーグラスの代わりに厚めのセロハン紙を検体の上 東京)200μg/kg SC(n=10),ドラメクチン(デクトマッ
に載せ,鏡検の際に使用した.また,虫体の計測は接眼 クス注,ゾエティス・ジャパン,東京)200μg/kg SC
マイクロメーターを用いて行った. (n=10),イベルメクチン(イベルメクチンポアオン,
発生状況調査:発症牛の結節発生部位を,2011年9月 フジタ,東京)500μg/kg滴下(n=7)またはフルメト
から2013年2月にかけて頭部,頚部,肩,全身,その他 リン(バイチコールポアオン,バイエル薬品,東京)1
に分けて記録した(n=100).結節発生時期については, mg/kg滴下(n=9)の4種類について,注射痕消失まで
2013年1月から12月にかけて月毎に発症頭数と気温との の期間,治癒までの期間,休薬期間を調べた.
関係を調べ(n=328),2011年11月から2014年6月にか 統計処理:4つの薬剤の治癒までの期間については,
けて発症牛の雌雄,発症日齢(月齢)についても調べた Tukey-kramerを用いて多重比較を行った.
(n=111).また,結節がアブ(Tabanus chrysurus)や
サシバエ(Stomoxys calcitrans)などの吸血昆虫[6]に 3.成 績
よる刺創傷である可能性も考慮し,2013年1月から12月 寄生虫学的検査所見:最も多くみられた頚部の結節症
にかけて結節中の虫体確認も併せて行った(n=56).母 状を図1に,まれに認められた全身性の結節症状を図2
子接触により子牛に感染したと思われる母牛61頭につい に示した.毛包虫の雌雄計測値は表1に示した.形態所
て,次の産次の子牛においても同様に結節症状がみられ 見はNutting[7]の記載に一致することから,Demodex
図1.頚部の結節症状.矢印は結節を示す. 図2.全身の結節症状.矢印は結節を示す.
表1.部位別の毛包虫成ダニの計測値
雌成ダニ 雄成ダニ
部位 方向 範囲(μm) 平均値±SD(μm) n 範囲(μm) 平均値±SD(μm) n
毛包内 体長 197.76-294.9 232.78±22.77 28 237.65-305.22 264.51±14.7 24
体幅 60.00-82.09 66.71±5.25 58.94-75.75 67.68±5.14
痂疲内 体長 270.0-150.0 218.8±33.04 30 190.0-231.5 219.0±16.31 19
体幅 51.87-66.53 63.47±8.84 50.0-61.03 57.51±4.21
体表面 体長 130.77-139.83 135.8±6.41 2
体幅 50.16-57.41 53.89±5.13
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bovisと同定した.虫体の大きさ(体長×体幅)は,毛 月から2012年12月の月別の結節発生率および地域の平均
包内の雌成ダニ(n=28)では平均で232.78×66.71μm, 気温を図4に示した.気温が高くなる夏季において,発
雄 成 ダ ニ(n=24) で は264.51×67.68μmで あ り, 痂 疲 生率が高くなる傾向が認められた.発症日齢について
内の雌成ダニ(n=30)では218.8×63.47μm,雄成ダニ は,最も若齢な個体は120日(4カ月)齢で発症がみら
(n=19)では219.0×57.51μmであった.また,皮膚表 れ,210日(7カ月)齢を過ぎると大幅に増加する傾向
面の雌成ダニ(n=2)では135.8×53.89μmであった.発 がみられた(図5).観察された結節のうち,2013年1
育ステージの中で,毛包虫は老化に従い腹尾部は短縮す 月から2013年12月の調査で6月から8月にみられた結節
ると報告されている[8].本研究では,腹尾部の短縮は の一部では虫体が確認できなったことから,吸血昆虫
体表から採取した虫体において観察された.小さな結節 [6]の刺創傷であると推察された(図6).母子接触に
(毛包)からの毛包虫の検出率は極めて低く,直径1.5 より子牛に感染したと思われる母牛61頭のうち,次の産
mm以上の大きな結節では検出率が高かった.結節の内 次の育成子牛においても同様に結節症状がみられた母
容物は,一般に黄白色の脂肪様よりも肉芽様が多く,内 牛は49%(30/61)であった.毛包虫発症育成子牛20頭
容物は多数の虫体を多く含んでいた.結節の表面に付着 について好酸球数を測定した結果,基準値(0.1 ~ 1.4×
3
した痂疲では虫体の検出率が高く,ひとつの痂疲から数 10 /μℓ)以上の高値を示す個体はみられなかった.
個~ 70個の虫卵または成虫を確認した.雄成ダニも毛 予防:毛包虫症の発症が認められなかった8件の生産
包内に比較して多くみられたが,毛包虫はすでに死滅し 農家において,衛生プログラムにイベルメクチンポアオ
ており毛包内の虫体より小さい傾向にあった. ン製剤の頭部から尾根部までの滴下投与が組み込まれて
発生状況調査:結節は頚部67%,頭部15%,肩13%, いた.また投与時期は,生後4~8カ月であった.
全身その他5%の比率で観察された(図3).2012年1 治療:各種薬剤において注射痕消失までの期間,治癒
までの期間,休薬期間を調査した結果,イベルメクチン
注射200μg/kgでは,注射痕消失までの期間は3.1±0.4週,
治癒までの期間は4.7±1.4週(平均±標準偏差),休薬期
間は40日で,注射時の疼痛は強かった.ドラメクチン注
射200μg/kgでは,注射痕消失までの期間は2.1±0.3週,
治癒までの期間は3.3±1.0週,休薬期間は70日で,注射
時疼痛は弱かった.イベルメクチンポアオン500μg/kg
では,治癒までの期間は4.9±2.2週,休薬期間は37日で
あった.フルメトリンポアオン1mg/kg,1週間ごと2
回投与では,治癒までの期間は2.3±0.5週,休薬期間は
2日であり,治癒までの期間はイベルメクチン注射およ
びイベルメクチンポアオンに比べ有意に短く,休薬期間
図3.結節の発生部位(2011.11 〜 2013.2) も4薬剤中最も短かった(表2).
図4.2012年における月別の結節発生頭数と平均気温
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図5.発症子牛の雌雄の頭数とその日齢(2011.11 〜 2014.6)
図6.2013年における月別の結節中虫体の確認状況
表2.各種治療薬の注射痕消失および治癒に要した期間と休薬期間の比較
4.考 察 までほとんどみかけることがなく,10年前で年に1~2
毛包虫は古くから知られているが,牛毛包虫の発生は 頭みる程度であった.近年,育成子牛のワクチン接種時
これまでに,欧州[9],アフリカ[10-12],南米[13], に結節症状が散見されるようになったことから本調査を
米国[14],モンゴル[3],日本[1, 2]などで報告され 行った.寄生虫学的検査での毛包虫の計測値は,これま
ている.管内の牛毛包虫(Demodex bovis)症は30年前 での報告[2, 7]と一致した.また,病変部体表をブラッ
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シングして採取した毛包虫は腹尾部が短縮していたが, 5.謝 辞
外気の接触により尾部の短縮がおきたと考えられる.結 本研究の調査にご協力いただきました生産農家の皆
節の発生部位は,頚部が67%と最も高い比率を示し,頚 様,貴重な御助言を賜りました宮崎大学農学部獣医学科
部から肩が好発部位とする過去の報告[3-5, 12, 15, 16] 産業動物内科学研究室 片本宏教授に深謝いたします.
と一致した.その他の部位として耳翼の背面,尾根部,
全身など多岐にわたっており,結節の発生は気温の上昇 6.引用文献
とともに増加傾向にあり,春から夏に蔓延するとされる 1. 田代哲之,他:牛の毛包虫症(Bovine Demodectic
報告[4]と一致した.2013年1月から2013年12月の調 Mange, Bovine Demodicieosis)の発生例について,
査で,6月から8月の気温の高い時期においては虫体が 日獣会誌,32, 30-33(1979)
確認されず,吸血昆虫(アブ,サシバエ)
[6]などの刺 2. 更科孝夫,他:牛毛包虫症の集団発症例,日獣会誌,
創傷やオンコセルカの寄生等が原因と考えられる結節が 38, 501-505(1985)
みられ,毛包虫の結節との鑑別が必要であった.母子感 3. H-F. Matthes:Features of bovine Demodecosis
染の伝搬様式については,出生後2日間の接触による感 (Demodex vovis stiles, 1892)in Mongolia: preliminary
染が証明されている[18].母子接触により子牛に感染 observations, Folia Parasitologica, 40, 154-155(1993)
したと思われる母牛のうち,次の産次の育成子牛におい 4. Chanie M, et al.:Prevalence of bovine demodicosis
ても同様に結節症状がみられた母牛は49%であった.ま in Gondar Zuria District, Amhara Region, Northwest
た,1年毎に感染が観察される症例も認められた.雌雄 Ethiopia, Global Veterinaria, 11, 30-35(2013)
間に発生頭数の差はみられなかったが,過去の報告[5, 5. Fantahun T, et al.:Bovine demodecosis: Treat to
16]では雌牛に発症が多い傾向にあり,ヒトでも女性に leather industry in Ethiopia, Asian J Agric Sci, 4, 314-
多いとの報告[17]がある.発症時期については,4カ 318(2012)
月齢から発症し7カ月齢から増加がみられたが,過去の 6. 今井壮一,他:図説獣医衛生動物学,202-226,講
報告[18, 19]においても症状が出始める時期が4カ月 談社,東京(2009)
齢とされている.毛包虫症発症の誘因としてビオチン欠 7. Nutting WB:Hair follicle mites(Acari : Demodicidae)
乏が報告[20]されているが,市場出荷前に発症がみら of man, Int J Dermatol, 15, 79-98(1976)
れることから濃厚飼料の多給等,ストレスや免疫抑制を 8. 松井邦義,他:毛包虫の研究,牛毛包虫の形態に
起こす原因があるものと考えられる.ヒトでも免疫抑制 ついて(第61回日本獣医学会記事),日獣学誌,28
(ステロイド剤等)が起きた時には,虫体が抗原となり (supple),403(1966)
急激に毛包虫が増加し,再び免疫力が高まると強い炎症 9. Martinelle L, et al.:Clinical cases of demodectic
を伴い毛包虫は消失すると考えられている[20].育成 mange in two Holstein calves, Ann Méd Vét, 154,
子牛でも自然治癒する症例がみられ[16],このような 61-64(2010)
免疫反応が起きていると推察される.毛包虫症の発症が 10. Hamid ME, et al.:Unusual manifestation of a
みられなかった生産農家においては,イベルメクチンポ concurrent demodectic and sarcoptic mange in a
アオン製剤の2回投与が実施されていた.生産農家に Zebu-Friesian cross-bred heifer, J South Afr Vet
よって投与時期は異なっていたが,若齢期の発症がみら Assoc, 77, 90-91(2006)
れた4カ月齢と発症数が急速に増加した7カ月齢の2点 11. George JBD, et al.:Louse and mite infestation in
が投与時期として推奨されると考えられた.治療では, domestic animals in northern Nigeria, Trop Anim
フルメトリン製剤のポアオンが効果的であるが,1回投 Health Prod, 24, 121-124(1992)
与では再発し虫卵には効果がないと考えられ,虫卵が孵 12. Bwangamoi O:The pathogenesis of demodicosis
化する時期を推定して1週間ごとに2回の塗布が必要で in cattle in east Africa, Br Vet J, 127, 30-33(1970)
あった.毛包虫症の診断には結節部の痂疲を用いるのが 13. Faccini JLH, et al.:Bovine demodicosis in the
最も有効であるが,細菌や真菌による二次感染を起こし state of Paraíba, northeastern Brazil, Pesq Vet Bras,
た場合には症状は複雑化し難治性皮膚病となるため,痂 24, 149-152(2004)
疲以外の病変に対しても鋭匙による掻把検査を実施する 14. Gearhart MS, et al.:Bilateral lower palpebral
ことが重要と思われる.今後,牛毛包虫症の育成子牛へ demodicosis in a dairy cow, Cornell Vet, 71, 305-310
の影響や効果的予防・治療法について,さらなる詳細な (1981)
研究が必要である. 15. Abu-Samra MT, Shuaib YA:Meibomian gland
demodicosis in cattle: The clinical disease and diagnosis,
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Inter J Vet Sci, 3, 11-17(2014) 18. Fisher WF:Natural transmission of Demodex
16. Matthes HF:Investigations of pathogenesis of bovis stiles in cattle, J Parasitol, 59, 223-224(1973)
cattle demodicosis: sites of predilection, habitat and 19. Martinelle L, et al.:Demodicosis in two Holstein
dynamics of demodectic nodules, Vet Parasitol, 53, young calves, Parasite, 18, 89-90(2011)
283-291(1994) 20. 堀江徹也:毛包虫とステロイド皮膚炎,,皮膚科の
17. 廻神輝家:皮膚毛包虫症(疥癬),皮膚臨床,21, 臨床,21,629-653,金原出版,東京(1981)
367-639,金原出版,東京(1981)
F. Tatsukawa1)†
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